スイスに留学中の那須田真之さんからお便りを頂きました。
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欧州原子核研究機構(CERN)を訪問しました。
私がKDDI財団のご支援を受けてスイスに留学し、2年以上が経ちました。ここでの研究生活で感じることは、スイスには基礎研究を強く重んじる風土があるということです。そのスイスの基礎研究において、代表.的な国際研究機関である欧州原子核研究機構(CERN、写真 1)を先日、訪問してきました。
CERNでは、ヒッグス粒子の発見で世界的に有名であるように物理学の素粒子分野の研究や、情報通信関連の技術開発を行っています。CERNの代表的な実験装置として大型ハドロン衝突型加速器 (LHC) という全周約27 km の円形加速装置あり(山手線の全周34.5 kmからわかるようにその大きさがうかがえます。)、フランスとの国境をまたいで設置されています。その加速装置により陽子を光速の99%以上まで加速させ衝突させることで、さまざまな物理現象を測定することができます。この実験により生成される素粒子を観測したり、宇宙の始まりであるビッグバン現象の再現やその実態について解析したりすることが可能です。また、World Wide Web(www)やHTMLはここCERNで開発されたシステムです。このCERNは、欧州を中心とした21か国で運営されており、世界71か国からの計1万人以上の科学者が研究に携わっています。
私が住むチューリッヒから電車で揺られること約3時間、ジュネーブ郊外にあるトラム停留所「CERN」に降りました。まず、目に飛び込んできたはドーム型のシンボルである「The Globe」(写真 2)。中に展示室などがあるということです。あらかじめ予約をしていたのでレセプションで名前を告げ、ツアーに参加しました。見学ツアーでは、CERNの紹介映像から始まりLHCの検出装置(ATLAS、写真 3)の原理の説明とそこから得られるデータの解析センター(写真 4)の見学、最後に、1957年にCERNで初めて運用された加速器の実物の展示(写真 5)の紹介で締めくくられました。また、陽子を加速させるための電力消費による膨大な熱を冷却するために大型水冷設備から絶えず大量の水蒸気が放出されている様子や(写真 6)、測定データも毎秒約1PBで得られるため、そこから優位性のあるデータをピックアップして処理するアルゴリズムや演算装置の開発が行われている様子も見学できました。全ての設備の規模が圧倒的に大きく、終始圧倒された一日でした。
このような基礎研究の成果は、私達の生活にすぐに結びつき役に立つようなものではありません。しかし、科学技術の芽を育て、将来の技術革新にむけて知見を蓄え育むために、基礎研究は長期的に国家にとって大きな利益になると私は考えています。基礎研究に巨額の投資をし、世界から優秀な人材を呼び込むCERN。基礎研究に真摯な姿勢に取り組むスイスの国民性を、あらためて伺い知る良い機会となりました。
2012年度日本人留学生助成 那須田 真之(東京工業大学大学院)